水鳥観察館から見える別寒辺牛川河口には、繁殖のため毎年2つがいのタンチョウがやってきます。これらタンチョウを見続けて5年目になりますが、片側のタンチョウには他の地域では見られないらしき非常に不思議な行動が見られるのです。それは「お引っ越し」です。
鳥には翼があるので、割と広い範囲で行動していると思われがちですが、鳥類は一般的に繁殖期にはある限定された範囲でしか動かないのです。タンチョウも例外ではなく、いつも見ているこの2つがいの行動する範囲は5年間ほとんど変わっておりません。図にも書いてあるように、観察館正面の湿原には2つがいの縄張りがあります。ところがですね、上流側のつがいBは、ヒナがふ化して必ず1ヶ月後になると引っ越しを始めるのです。お隣Aの縄張りの端、山側ギリギリをコソコソとヒナを連れて歩きながら、厚岸湖に近い河口左岸に出るのです。
いつもなわばり境界線あたりで睨み合ってケンカばかりしているこの2家族も、さすがによそ様のおうちの敷居をまたいで引っ越しするのは気が引けるようです。移動中は、草むらの中からチョイチョイ頭を出しながらあたりを見渡し、1〜2時間くらいかけて引っ越しします。
今のところ、引っ越してる最中になわばりBの主に見つかったのを見てはいませんが、引っ越した先は、お隣Aのなわばりの中。そりゃ、元の主にすればおもしろくありません。速攻で追い払いに行くのですが、引っ越しが完了してしまえばBのつがいも強いこと。つがいAのなわばりの一部を占領して、新たななわばりの完成です。
タンチョウのなわばりは、ヒナの成鳥に合わせて若干拡張する傾向にありますが、隣のなわばりをまたいでしまうという例はいままで確認されていないそうです。ましてや、小さなヒナを連れての大移動が定期的に見られるのも厚岸くらいではないでしょうか。ではなぜ別寒辺牛川河口ではこんな事が起こるのでしょう?
移動した先は、実はタンチョウの餌がたくさんある干潟が多いのです。つがいAの最初のなわばりは、ハンノキなどが多めの少し乾燥した所で餌条件はそれほどいいとは思えません。逆に、巣を作るには水が多すぎます。なので、ヒナを孵すのは上流側、そしてヒナの成長に合わせてより餌の多い場所に移動しているのかな?なんて想像もできます。さて、本当はどうなんだろう?