海ワシたちの受難(その2)

 サハリン・カムチャツカから道東に多数渡ってくる海ワシたち、人間のおこぼれに依存する現状は前回書きましたが、ここ数年さらに深刻な事態が彼ら種そのものの存続を危うくしています。

 海ワシたちは普段は優秀なハンターですが、動物の死体があると好んでそれらを食べます。死体は衰弱死あるいは事故死した鳥類やほ乳類ですが、近年圧倒的に目にする機会が多くなったのがエゾシカの死体です。

 エゾシカの死亡原因は様々ですが、別寒辺牛川の場合、川が結氷する前後の氷が薄い時期に溺死した死体をよく見かけ、当然それらには海ワシ類が群がります。これら自然の営みによる死体はワシ類にとっても有用な食料になるのですが、そうでない死体もあります。

 最近マスコミで「鉛中毒」という言葉を目にする機会が多くなったことに気づく人も多いと思います。実は、エゾシカは狩猟の対象であり、増えすぎた個体を減らすための駆除の対象でもあります。ライフル弾(鉛製)に被弾したエゾシカの傷口には、その衝撃で飛散した鉛の破片が多数入っています。体内に鉛片を持った、後に死亡する手負いのものや放置された死体も、やはりワシ類たちの餌になってしまいます。傷口は、最初に嘴を入れるのに都合がよく、また強い成鳥から真っ先に食します。消化器官に入った鉛片は溶けて吸収されやすくなり、その結果、繁殖可能な成鳥が集中的に鉛中毒になり...死亡しています。その数、平成9年度の冬季だけで19羽。厚岸町でも今期は既に2羽の鉛中毒による死亡が確認されています。もちろんこれは氷山の一角だと容易に想像は付きます。

 オオワシは全世界に約5,000羽、オジロワシもその数倍しかいません。日本に渡ってくるのはその一部ですが、このペースでワシ類が死亡していくとすると...日本で海ワシ類が見られなくなる日も遠い話ではなくなってしまいます。それを避けるには方法は2つしかありません。鉛を使わないか、死体を放置しないか。