タンチョウの天敵はタンチョウ?
厚岸町の別寒辺牛湿原には、約30つがいのタンチョウが繁殖しています。そのうち2つがいほどが、水鳥観察館周辺に生息しています。これらタンチョウは3月から4月にかけてなわばりが確定し、そして4月から抱卵を開始します。実はこの時期、タンチョウは大きな試練を乗り越えなくてはなりません。
明治時代、2桁にまで生息数が激減したタンチョウも、冬場の給餌など手厚い保護努力の結果、現在600羽を超える数にまで生息数を増やしてきました。しかし、このことは別の問題を引き起こしていまいました。
タンチョウの生息数が激減した原因は主に乱獲や生息地である湿地の開発によるものですが、生息地の回復を行うことなく生息数だけが増えていった結果、タンチョウの住みかが非常に過密になってしまったことです。1つがいのタンチョウが必要とする繁殖地の面積は数Iにもなるのですが、その面積がどんどん減少しているのです。そうなれば、お隣のタンチョウつがいといざこざを起こす回数も増えていき、なわばり争いも激化していきます。その結果、昨年、ヒナが生まれて間もない時期に、親がヒナを放置したままお隣のつがいとなわばり争いをしていたところ、そのすきにキツネにヒナが奪われるといった事件も起こってしまいました。
タンチョウの必殺技は、あの恐竜のような脚を使った蹴りです。同じタンチョウ同士で、お互い血が出るほど蹴り合いをする場面を水鳥観察館のカメラで見るのも珍しくはありませんが、タンチョウの研究者の方に伺うと以前はこんなことはなかったそうです。また強いタンチョウは、条件の良いなわばりを確保できますが、若いタンチョウたちは農耕地や牧草地に餌場を探さなければなりません。最近そのような人工的な環境で巣作りを行うつがいも出てきて問題は益々深刻化しています。
条件の良い営巣地を確保できないタンチョウたちもただ黙って指をくわえているだけではありません。よりよい営巣地を求めて、生息中のタンチョウがいる場所に侵入しようとするものもたくさんいます。いつも観察館の前で営巣しているタンチョウのつがいにも、今年4月にこんな事件がありました。4月8日に抱卵を始めたのですが、12日にどこからか侵入個体が2羽やってきて、ここをなわばりとするつがいに挑戦してきたのです。観察館前を生息地にしているここの主は非常に強いのですが、今回侵入してきたタンチョウは力ではかなわないものの、異常にまでしつこく居座ろうとした結果、主の方のオスが完全に逆上?してしまい、息を荒くして脚の皮がむけるほど相手タンチョウに対して蹴りを行い、その結果約4時間後追い払うことはできたのですが、引き続きもう1羽が同じように居座り続けたため、その翌日ついに営巣を放棄してしまいました。
タンチョウの天敵は、キツネ、野犬、帰化したミンクなどが一般的なのですが、営巣中に起こる出来事を見ていると一番の敵はタンチョウなのかな?と思ってしまいます。しかしよく考えてみると、キツネの増加も、野犬の増加も、本来いないはずのミンクの野生化も、そして生息地を奪ったのも全部人間の犯した罪なんですよね。やっぱり一番の天敵は人間か...