別寒辺牛湿原周辺地域における開墾に伴う河川氾濫堆積物の編年学的研究
北海道大学大学院地球環境科学研究科 鈴木幸恵

 森林伐採や農業などの人間の活動は、河川流域に大きな影響を与える。森林は「みどりのダム」と呼ばれ、雨水をスポンジのような土と、木の根で水を蓄え、長い時間をかけて少しずつ水を流し出してくれる。そのため、森の中を流れる河川は大雨による洪水を防ぐという大きな役割も果たしている。森林は木のない場所の30倍もの水を吸いこむ能力があるといわれている。網の目のように張り巡らされた木の根や、落ち葉の働きで、強い雨が、じかに土にあたらないようにして地面の土砂が流出して災害をおこすのを防ぐ。そのため森林が、農地を住宅、道路などをつくるために伐採されることにより、降雨時には森林や、河川の環境(性格・性質)に与える影響は大きい。同時に、流出した土砂は河川下流域に位置する湿原内に徐々に堆積し、湿原の陸地化・乾燥化につながる。湿原の陸地化・乾燥化は湿原の環境を激変させる。したがって、湿原がもつ環境機能(水をきれいにする機能(水質浄化)・野生生物の生息地としての機能・洪水の急激な流出を緩和する機能)の保全のためには、まず実際に開墾が湿原にどのような影響を与えているかを明らかにすることは重要であると考える。この調査をおこなうためには、河川氾濫堆積物という、河川が氾濫した時に河岸に土砂が堆積してつくられた自然堤防の堆積物を観察することが必要である。この河川氾濫堆積物は、河川が過去にどのような氾濫をおこしてきたのかを記録している年表のようなものである。
 そこで本研究では、別寒辺牛川流域と南十勝地方の農野牛川流域、生花苗川流域および当縁川流域で河川氾濫堆積物の調査・分析をおこなった。同時にこれらの地域の土地利用変化の調査もおこなった。
 その結果、どの河川流域の河川氾濫堆積物も地表面に近い堆積物は砂などの粗いものが多く、より深い、つまりより古い堆積物は粘土などの細かいものが多いことがわかった。これは、細かいものを堆積させるような環境から、粗いものを堆積させるような大きな氾濫がおきる環境に変化したことを意味する。堆積物は火山灰やセシウム−137という物質によっていつごろ堆積したのかを知ることができる。これらを利用して河川氾濫堆積物をみると、堆積物が粗くなる時期は流域ごとに違うことがわかった。どうして違うのか?その理由として考えられるのが土地利用変化である。各流域で土地利用変化のパターンが異なり、耕地が急激に拡大する時期と堆積物が粗くなる時期とがほぼ一致することがわかった。
 以上のことから、人間活動は自然環境に大きな影響を与えることがわかった。そのため、どのような影響を与えるのかを調査することは重要なことである。

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