厚岸湾アマモ場における葉上性カイアシ類 Kushia zosteraphila の生態学的研究 高知大学理学研究科 安里 加奈子
北海道東部・厚岸湾アイニンカップ沿岸には、アマモZostera marinaやオオアマモZ. asiatica の海草が優占した草藻場が広がっています。海草藻場は、水産資源として有効な魚類や甲殻類などが摂食場所や産卵・保育場所として利用しています。海草葉上には、それらの餌となっている葉上動物が生息しており、カイアシ類は主な葉上動物の1群です。海草藻場の中でカイアシ類゙が果たしている役割を知る上で、葉上性カイアシ類の生態学的特性を明らかにしておくことは重要です。アイニンカップのアマモ葉上には、成体の体長が約1mmで赤色をしたカイアシ類 Kushia zosteraphila (Harpacticoida, Porcellidiidae)が多く生息していますが、その成体について知られていません。そこで、アイニンカップのアマモに生息するK. zosteraphilaの生態を明らかにすることを目的とし、生活史の調査を行いました。
調査は、2000年9月から2001年9月まで毎月大潮の干潮時に行いました。K. zosteraphilaの発達段階ごとの出現個体数、抱卵雌の割合、交尾前ガードをおこなっている個体の割合、雌雄の割合、雌1個体あたりの抱卵数、成体の体長、アマモ1株あたりの葉面積、これらの季節変化を調べました。また、コホート解析を行い同齢出生集団の成長速度を推定しました。
これらの結果より、K. zosteraphilaの個体数とアマモ1株あたりの葉面積の季節変化はほぼ一致しており、本種はアマモを生息基盤として利用していると考えられました。本種の寿命は、長くて11ヶ月であることがわかりました。さらに、K. zosteraphilaは1年に2世代存在が推定されました。1世代目は、6月初旬から8月の間の繁殖期に孵化します。6月初旬から7月前半に孵化した個体は、9月の始めには成長して成体になり繁殖活動を行いますが、7月の後半から8月に加入した個体はすぐに繁殖を行わずに越冬します。2世代目は、1世代目による9月の繁殖期に孵化し、翌年の3月までにそのほとんどが成体になります。そして5月に、越冬した1世代目と2世代目の個体は繁殖を行います。
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